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愛麻衣な異世界

愛麻衣な異世界

ゆり色の人生

連休。
イベントとかにも出てると、なかなかカレンダー通りのお休みが取れない私達だけど、今年の大型連休は、奇跡的に麻衣ちゃんと一緒の四連休が取れた。

でも、日にちが確定したのは本当に直前だったから、どこかに泊まりがけみたいな旅行を計画するのは、もう無理なタイミングで、仕方なく・・・でもないよね。麻衣ちゃん家にずっとお泊りする事になった。

実は、最近のマイブームになってる、お笑いの舞台を見に、一人で小旅行、っていう案も、無くはなかったんだけど、やっぱり、麻衣ちゃんと一緒の方がいいもんね。


一日目。

朝一番から、着替えの入った大きな鞄を手に、麻衣ちゃん家のチャイムを鳴らす私。

ドアから姿を見せた麻衣ちゃんに、昨日考えていた挨拶。
「ふつつかものですが、末永くよろしくお願いします。」

勝手知ったる麻衣ちゃん家だけど、こんなに長い時間を一緒に過ごそうというのは、多分初めてのこと。普通のお泊まりじゃない、っていう意識、ちょっとある。

私の挨拶に、まずびっくり、そのあと照れた笑みを見せた麻衣ちゃん。でも、いつもみたいに、おいで、っていうポーズをしてくれ、私は迷いなく麻衣ちゃんの胸に飛び込んでいく。

なんかね、あるべき所に帰ってきた、っていう感じなの。麻衣ちゃんの胸の中は。


それから、すぐに、二人で近所のスーパーにお出かけ。お昼は簡単におそば、夕食はカレーにしよう、って事になって、二人分の食材を買い集める。何でもない事だけど、二人分、って考えるのが、何か嬉しい。

帰って来てすぐお蕎麦をゆがき始める麻衣ちゃんと、その横に立って、晩ご飯のカレーの具の下ごしらえを始める私。今日からしばらくは、何をするのも、ずっといっしょ。


お昼ご飯のあと、カレーを煮込みながら、お部屋に寝っ転がってDVDを見たり、漫画を読んだりしながら過ごす昼下がり。そして、辺りは徐々に夕暮れに。


「あれ、飲み物が切れてる。・・・愛ちゃん、何か買いに行く?」
キッチンの冷蔵庫の中を覗き込みながら、そう言う麻衣ちゃん。

「でも、おなべが火にかかってるし、私、お留守番してようか?」
煮込んでる最中のカレーをおいて二人とも外に出るのはそれなりに危ないから、私は、麻衣ちゃん家の玄関で麻衣ちゃんを見送る事に。
こういうシチュエーションは今まで無かったから、ちょっと変な感じだよね。

靴を履き、「じゃ、ちょっと行って来るね。」
って言いながら、なぜかこっちを見つめて、すぐには出ていかないでいる麻衣ちゃん。

「・・・え? 何か忘れ物?」
私が問いかけると、なんか、こころなしか、ちょっと顔が赤く見える麻衣ちゃんが、
「うん、いや、なんでもない。」
って、視線を少し外して、ようやくドアを押し開く。

「そう? じゃ、いってらっしゃい。」
軽く微笑んで、小さく手を振り、麻衣ちゃんを送り出したあと、キッチンへ戻ろうとする私。

でも、さっきのあれ。絶対、麻衣ちゃん、変な想像してたよね。・・・新婚家庭の朝の儀式とか? 

もしかして、いってらっしゃいのチュー、とか待ってた?

・・・それじゃあ、ね。


帰ってきた麻衣ちゃんがドアの鍵を開ける音を聞いて、素早く玄関に滑り込んで正座で座る私。
そんな私の変な動きを真似して、隣に来てちょこんとお座りするモカ。
そして、スーパーの袋を片手に入って来た麻衣ちゃんを見上げて。
「おかえりなさい、あなた。」「ワン。」

「た・・・ただいま」
ちょっと、その場に立ち尽してるっぽい感じの麻衣ちゃん。

「お風呂にする? ご飯にする? それとも・・・チュー?」
ちょっと小首も傾げてみたりして。実は、お風呂も、ご飯も、全然、用意できてないんだけどね。

「か・・・カワイイ。愛ちゃん、もう一度。」
「む・・・無理。」
もう一度って。恥ずかし過ぎるよ。

「え~、やってくれないの? ・・・じゃ、あたしのお嫁さんはモカかな、やっぱり。」
「え~。モカたんがライバルなの、私?」

麻衣ちゃんは、私の隣に並んで座っているモカの方に手を伸ばして、
「はい、モカ、お手。待て。伏せ。」
「ワン。・・・ワン。・・・ワン。」
「はい、よくできたね。やっぱり、お嫁さんは、これぐらい従順じゃないと。」

さすがに、ご主人様によく慣れてるモカたん。だけど、麻衣ちゃん歴なら私の方が長いもんね。・・・って、何を対抗してるんだろう、私。

「私だって従順だよ。」
「そう? じゃぁ、愛ちゃん、お手。」

ホントはここ、ペット扱いをされて、ふくれるなり、すねるなり、しなきゃなんない所なんだろうけど。
私、麻衣ちゃんに見つめられると、視線を外せなくなる体質。麻衣ちゃんに微笑まれると、何でも出来ちゃう仕様。

少しかがんで、片手を差し伸べてくる麻衣ちゃん。

「・・・わん」
私は、さっきモカがしたように、自分の片手を麻衣ちゃんの掌にそっと載せる。

掌同士が接触したまま、徐々に麻衣ちゃんが手を滑らせて、指が絡んでいく。
麻衣ちゃんに見つめられたまま、しっかりと指が絡み合い、次に起こる事に期待して目を閉じると。

「まて。」

・・・ひどいよ、麻衣ちゃん。
私、目を閉じたままだけど、表情、多分変わっちゃった。


「愛ちゃん、お手。」
え、また? と思って、閉じていた目を開けると。既に指が絡んでいるのと逆の手を、同じように差し伸べている麻衣ちゃん。

「・・・わん。」
さっきと同じように、でも、こっちの手は、最初から指を絡めにいく。

両手を繋ぎ合った状態で、正座から見上げ、逆に中腰から見下ろす格好で、互いに見つめ合う私たち。
もう満面と言ってもいい麻衣ちゃんの笑みから口元が動いて、次の命令。

「ちゅう。」


「・・・わん」
私が命令を受け入れる意思を示すと、麻衣ちゃんは立ったまま更に低く屈んで、目を閉じる。

私、澄んだ表情の麻衣ちゃんの顔を見上げ、正座から膝立ちになって、精一杯に伸びる。
吐息がかかるほど顔が近付いて、もう少しで麻衣ちゃんのくちびるに触れそうに。

でも、屈んでくれている、とは言っても、立っている麻衣ちゃんと膝立ちの私では、くちびるが触れ合うにはギリギリの体勢だから、長い時間は無理かも。

それでも。ひときわ高く上体を伸ばすようにして。

ちゅ・・・

時間にして二秒ほどだったけど。それでも、麻衣ちゃんと直接触れ合うのは、一番の幸せを感じる瞬間。

だけど、やっぱり、ちょっとやだ。時間なら、こんなにたくさんあるのに、切ないよ。
短い時間で離れたあと、目を開けて無言で見つめ合う。

少し緩んだように動く麻衣ちゃんの表情。
私は、それをサインに、指を絡ませ合ってる両手に力を入れ、麻衣ちゃんの腕を頼りに中腰から立ち上がろうとする。
麻衣ちゃんも、立ち上がりかけた私を、繋いだままの両手でしっかり支えてくれて。

難なく立ち上がる事ができ、さっきよりも自然な角度で顔同士が近付く私たち。もちろん、手はずっと握り合ったまま。

麻衣ちゃんが、そっと口を開く。
「あたしのお嫁さんの条件はね、まず第一に、愛ちゃんぐらいカワイイ人。それから、お掃除はできなくても、チューが上手くないとダメよ。」

至近距離から、そう言ってくる麻衣ちゃんに、私、嬉しさと、抗議と、アピール。

つま先立ちで高さを合わせてから、麻衣ちゃんの唇の、少しずつ左右にずらせた位置を狙って、触れるだけのような、チュッって音の鳴るキスを、素早く4回。

麻衣ちゃん、目が潤み、くちびるを尖らせて、すねたような表情に。

「わたし、いいお嫁さんになるよ」
そう囁いて、私、首を一杯に傾け、麻衣ちゃんの頬に、唇を押し当て続ける。


「じゃぁ、さぁ。とりあえずー、」
麻衣ちゃんが何か言いかけたので、顔を離して、目を見つめる。

「この連休の間、お嫁さんになって。」

麻衣ちゃんの甘い声。目を細めた優しい表情。
これって、新婚さん、ってことだよね。

「・・・なって。」

聞き慣れてるはずの私がぞくぞくしちゃう、さらに甘い声。


「なる~。」
私も、自分でびっくりするような甘い声が出て。
お互いにじらし合っちゃった末の、長い長い、ホントのキス。
もちろん、繋がったままの両手は離さない。


そんな事をしている内に見事に焦げたカレーは、ふーふーしながら、二人で食べさせ合いっこ。


二日目。

朝。特別、予定がある訳でもないから、二度寝、三度寝までして、ゆっくりとまどろむ。
何度目が覚めても、隣に麻衣ちゃんがいる、怖いぐらいの幸せを堪能して。

二人とも完全に起きたところで、どちらかと言えばお昼の方に近い時間のブランチ。
お湯を沸かして、サラダとスクランブルエッグを用意する私と、いつものお店に焼きたてのパンを買いに出る麻衣ちゃん。
ほんの十分、二十分の別れなのに、こんなに長い時間を一緒にいる中では、なんだか、その別れすらも惜しく感じてしまう。

ここで私たち、「いってらっしゃいのチュー」を初体験。離れた後に気付いた、モカたんの不思議そうな視線が痛くて苦笑い。「何、この馬鹿夫婦」とか思われてたりして。


お昼からは、何かテキトーに映画でも見に行こう、って事になって。そのあとは、カラオケに。

いろんなお友達と、割と良く行く機会のあるカラオケだけど、麻衣ちゃんと二人、っていう組合わせは、案外少なかったかもしれない。

一曲目には、懐かしい私達の始めてのデュエット曲「行くよ、LuckyWave」、それから、PoppinSさんの曲を何曲か連続で予約する。

LuckyWaveは、「私たちはここから始まった」って言ってもいい、おねがい☆ツインズにちなんだ曲。

番組が始まる少し前が、私たちの本格的な出会いで、そこで麻衣ちゃんが「友達になろう?」って声を掛けてくれたのが、全ての始まり。
そこから、もう三年も経って。その間に、本当にいろんな事があったよね。
結局、お友達とは、微妙に違うものになっちゃったけど。
・・・ううん。なりたくて、なったんだから、後悔なんて無いよ。

「恋のJET SHOOTER」、「HAPPY COSMOS」、「さらっちゃって流れ星」。
DearSの頃で思い出すのは、必死になって練習した振り付けだったり、お目目ぱっちりメイクの麻衣ちゃんの可愛い笑顔だったり。
もう、その頃には、はっきりと意識してた。麻衣ちゃんは私の運命のひと。

二人で歌い進んでいくうちに、曲は「秘密ドールズ」に。
全てが大事な「娘」同然に思える私たちの歌の中で、ひときわ大きな意味を持っていた一曲。
独特のメロディーラインと、フェルマータを地で行っている歌詞は、この曲を持ち歌にしている私たちでさえ、その不思議な世界に引き込んでしまう。

ずっと二人で並んで歌っていた私たち、やっぱり、この曲の最後で見つめ合ってしまった。

徐々に近付く麻衣ちゃんと私の顔と顔。
だけど、ここはカラオケボックスだから、部屋の中は、半透明のガラスのドア越しに、全部外から見えちゃう状況。

それでも、麻衣ちゃんと私は、そのゆっくりとした動きを止められない。
もう、あと1秒でキスになっちゃう、その直前。ほんとうに、かろうじて。麻衣ちゃんと私が同じ動きを取ったため、おでことおでこのドッキングに。

二人とも、その体勢のままで、クスッと照れ笑いをして、緩む口元。これだったら、店員さんに咎められても、熱を測っているようにも見えるから、きっと大丈夫だよね。

30秒くらい、そのままでいたかな。うん、ちゃんと麻衣ちゃんを感じたよ。


今日最後の一曲には、私の最新レパートリーを初公開。いや、古い曲なんだけどね、ネットで見かけた変な替え歌が、妙に頭に残ってて。

もしも私が 家を建てたなら
小さな家を 建てたでしょう
大きな倉庫と 小さなゴミ箱
部屋には最新 家電があるのよ
古い本棚 飛び出す絵本
小犬の横には 麻衣ちゃん麻衣ちゃん
麻衣ちゃんがいてほしい
それが私の 夢だったのよ
いとしいあなたは 今どこに

二人の写真を 敷き詰めて
優しく寄り添い 暮らすのよ
家の外では 小犬が遊び
小犬の横には 麻衣ちゃん麻衣ちゃん
麻衣ちゃんがいてほしい
それが私の のぞみだったのよ
いとしいあなたは 今どこに

そして私は カレーを煮込むの
わたしの横には
わたしの横には
麻衣ちゃん麻衣ちゃん
麻衣ちゃんがいてほしい・・・

ちょっとだけ掃除が不安な妻の心情を歌ってみました。
エコーの効いたマイクで連呼された麻衣ちゃん、真っ赤に。
でも、私を優しく抱き締め、頭を撫でてくれた。


三日目。

何を思ったのか、レンタカーを借りに行く麻衣ちゃん。その間、私は麻衣ちゃん家でサンドイッチを作る。・・・つまり、ドライブ。

私は初めて見る、かなり必死になって小さな可愛い車を運転する麻衣ちゃん。
それを助手席から見守っている私の膝の上には、モカたん。

こんなに近くに、一つの空間にいるのに、ちょっと声を掛けづらい雰囲気なのが物足りないけど。
助手席にいても、最近のナビは良く出来てるから、お手伝いする事は何も無い。
仕方が無いので、麻衣ちゃんの横顔をずっと見てる。
歩いてる時だったら、ちらちらとこっちを伺ってくれるのに。やっぱり、ちょっと不満。


街中から山向きに一時間と少し走ったところに、湖・・・までは大きくない、大きな池のある、すごく景色のいい所があったので、そこでお昼にした。

緑と日差しに囲まれ、何の音も聞こえない自然の中は、ふだん暮らしている世界とは全く別の空間のようで。モカたんも喜んで、土の地面を走る、走る。

この広い空間に、麻衣ちゃんと私とモカたん、二人と一匹だけ。

池のほとりに立って、モカたんの様子を見守っている私の背中に、知らない内に近付いて来てた麻衣ちゃんの気配。
「元気だね~、モカは。なんか、家にいる時より、羽目を外してる感じ?」
そう言う麻衣ちゃんの両手が、背後から私の両肩にそっと置かれ、そして、
「モカ、何かいつもとちょっと違うように見えない?」

私は、すぐに返さずに、無言で背中の麻衣ちゃんに寄りかかってみる。
そして、ひと呼吸おいてから、
「ご主人様も、いつもと違うムードが出てるよ。」

「愛ちゃん・・・。私って、ムード出してる?」
多分、背後で情けなく笑ってる感じの声色。

私、身体を背中の麻衣ちゃんに預けたまま、首だけを、斜め後ろを見上げるように曲げ、両目をきっちり閉じて待つ。

私の両肩に載せられていた手がゆっくりと動き、後から上半身が抱きしめられた感触があって。それから、3・2・1って、何となく頭の中で始めたカウントがゼロになった瞬間。
麻衣ちゃんの柔らかいくちびるが、私の上に重なった。

遠くに聞こえる鳥のさえずりだけが耳に入る静かな空間の中、時間を持て余したモカが足元に来てぐるぐる回り出すまで、ずっとそのまま、長い長いキスを続けた。

今まで、電車とかで一緒に出かける事は有ったけど、こうやって、車で、ってなると、本当に麻衣ちゃんに連れて来て貰った、って感じがするね。ありがとう、麻衣ちゃん。


そのあと、帰り道に佳奈ちゃん家に寄ってみると、ちょうど遊びに来ていた千和ちゃん、理科ちゃんがいて、時ならぬ「ワンダバスタイル」同窓会に。

佳奈ちゃんの手料理を頂いて、あの頃の昔話から、最近の話題まで。ビールを片手に花を咲かせる。
でも、車だから飲めない麻衣ちゃんは悔しそう。

盛り上がった話の途中、何気なくビールに伸びた麻衣ちゃんの手を、私、目ざとくみつけて、ポン、と、はたく。
続いて、「めっ!」っていう目で麻衣ちゃんを睨む仕草をすると、
「ゴメンゴメン」って頭を掻きながら私に謝る麻衣ちゃん。

「なんか、あんたたち、」「どんどん本物の夫婦と見分けがつかなくなるよね。」
そんな事を言われたけど。
麻衣ちゃんは私が守る。

帰ってから飲んでね、って、缶ビールをいっぱいもらった。

佳奈ちゃん家を出て、少し走った帰り道。「後ろの方から変な音がする」って麻衣ちゃんが言い出して、一度、車を脇に寄せて、後ろを見に行くと。

「もう、やられた。きっと佳奈と理科ね。途中、消えてたと思ったら、こんなモノ。」
そう言って笑う麻衣ちゃんの手には、紐の付いた缶ビールの空き缶の束。

私たち、こんなもの引きずって、「かんからかんから」って言わせながら走ってたの?
恥ずかし過ぎるよね。

同じ年齢で、同じ現場をいくつも経験している私たち。きっと、いつまでも同級生。


車を返しに行った帰り道、今日は麻衣ちゃんに全然触れられなかった分、ずっと手を繋いで帰った。

帰り着いてからは、慣れない運転ごくろうさまでした、って、マッサージ。
それが終わってから、耳掃除のオプション付きで、ひざ枕もサービス。

そしたら、実は疲れてたのか、本当に寝付いちゃった麻衣ちゃん、萌え。

麻衣ちゃんの寝顔で始まる一日、寝顔で終わる一日。何て素敵なんだろう。


四日目。

朝。
眠い。眠いけど、麻衣ちゃんより先に何とか起きる。

私、基本的に、麻衣ちゃんよりも夜型だから、これはなかなか難しいこと。
目覚ましとかかけちゃうと、私より先に麻衣ちゃんが起きちゃうから意味ないし。
実際に人と一緒に生活するのは難しいって事かな、と、ちょっと気落ち。

いや、でも、ちゃんと今日は起きられたし、きっと大丈夫。
まだよく寝てる麻衣ちゃんを起こさないよう、髪におはようのキスをして、そっとベッドを離れる。
それから、ちょっとだらしなく、あくびをしながら、伸び。
うん。今日もいい天気みたい。

キッチンに立ち、コーヒーをいれるためのお湯を沸かす。
冷蔵庫の中を見て、朝のメニューはトーストとハムエッグに決定。

となると、油や水分がハネちゃったらヤだし、寝間着は脱いじゃわないと。
でも、今日は何着ようか。起きたてで頭回んないし、何か面倒だし。
そんなことを考えながら、昨日から出しっ放しだったエプロンを付け、材料を用意する。

無事に二人分のハムエッグが用意出来た所で、後ろからの視線に気付いて振り返ると、そこでは、いつのまにか起きていた麻衣ちゃんが、ダイニングのテーブルに頬杖をついて、こっちを見てた。
見てた、というか、凄く楽しそうに笑ってるんだけど。

「おはよう。どうしたの、麻衣ちゃん?」
と声をかけると、
「うん。おはよう。いや~、でも、お嫁ちゃんって、いいもんだね。」
って言って、頬杖でニヤニヤしたまま、ず~っとこっちを見てる。

そりゃ、今まで麻衣ちゃんに嫁がいたなんて話は聞いた事がないけど。
「何がそんなにいいの?」

「愛ちゃん、もしかして気付いてないの?」
「何が?」
「自分の格好。」

・・・え? 
私、寝間着を脱いで、その代わりにエプロンしたんだっけ?

「きゃぁ!」
いきなり背中の真ん中を指で「つーっ」となぞられ、飛び上がる私。
当たり前だけど、それは、近付いて来た麻衣ちゃんの仕業で。
しかも、じかに指を感じちゃった、っていう、今の私の服装は。

「あたしね、新婚になったら、絶対に、裸エプロンやろうと思ってたのよ。もう人類のロマンよね、これは。」
なんて、指を止めずに力説してる麻衣ちゃん。
                                     
そりゃ、新婚カップルが最大の幸せを感じる瞬間なのかもしれないけどさぁ。・・・あぁん、もう。くすぐったいぃ~。

麻衣ちゃんは、「この後ろの結び目が」とか「腋の下の隙間越しに」とか変なところに注目するし、最後には、「あぁ~。もう、たまんない。」って背中に抱きつきに来る。

って、麻衣ちゃん。やっぱり着せる方かよ。
麻衣ちゃんの何分の一かは絶対女性じゃないよね。私は、そんなところにもドキドキさせられちゃう訳だけど。

麻衣ちゃんは、
「ああ、可愛い人のこんなにカワイイ格好が見れるなんて。・・・幸せ。」
なんて言ってるけど、
「見るだけで終ってないじゃん。」

あ! エプロンの中に、手、入れて来たよ・・・。

「N原さん、それはセクハラというものでは?」
「あら、S水さんもお好きじゃなくって?」
「嫌いじゃないけどぉ!」

今の私、後ろから抱きしめてくる麻衣ちゃんの両腕が、わきの辺りからエプロンの中を通って前に回っているという、かなりフェルマータな状況。
くすぐったいような、あったかいような。

「男はみんな狼、って言うけどさ、麻衣ちゃんも、ときどき狼になるよね・・・。」
「いや、狼も半分はメスだから。」
そう、悪びれもせずに言う麻衣ちゃんに。
「狼にも、親父っているんだ・・・。これじゃ中原じゃなくて、セク原麻衣だよ。」
「愛ちゃん? そういうこと言う赤頭巾ちゃんは・・・。」

わわわ。じかにお腹に触ってた麻衣ちゃんの両手が、ゆっくり胸の方にすり上がってくるよ。
そりゃ、麻衣ちゃんだから、ヤじゃないけどぉ。

ピィィィ!
突然、ケトルから、かん高い笛の音。と、それと同時に動きを止める麻衣ちゃんの腕。

「麻衣ちゃん、お湯沸いた。」
「・・・うん、沸いたね。」
背中の麻衣ちゃんと変な会話。

しばらくの無言の後、また、麻衣ちゃんの手に、ちょっとだけ力が入ったように思った瞬間、

ピッピッピッピッピ!
今度は、トースターから電子音。

「麻衣ちゃん、トースト焼けた。」
「・・・うん、焼けたね。」

「続き、するの?」
って、わざとらしく聞くと。
「いや、そう改まって言われるとね。なんかタイミング悪いし。・・・愛ちゃんは、準備できたらブザーとか鳴る?」

「そんなの鳴らないよぉ・・・。だいたい、何の用意が出来たら鳴るの?」
「いや・・・チューしても良くなったら、とか?」

そんなの。
「麻衣ちゃんなら、いつでもOKだよぉ。」

「もう、このコは本当に、媚び上手の、甘え上手なんだから。」
って言う麻衣ちゃんに、早くも引き寄せられ始めている私。

あ。ちょっと。

「麻衣ちゃん待って・・・は・・・、・・・くしゅん!」
私、突然、くしゃみが出て。

「あら。身体が冷えちゃったのかしら。」
気遣ってくれる麻衣ちゃんに、私、「そうかも。」

そしたら、
「じゃあ、私が愛ちゃんの身体を隅々まで暖めてあげるね。」

いや、そういう気遣いよりもね。
「・・・服着させてくださいぃ」

「もう、冗談に決まってるじゃないの、ホントに可愛いわね、このコは。はい、こっちおいで。」
麻衣ちゃんに引っ張られながら、とりあえずキッチンから寝室に移動。

「・・・でさ、それは何?」
「いや、着替える前に、愛ちゃんのカワイイ姿、是非、写メに撮っておこうと思って。」
「誰に送るの~!」
「送らない、送らない。・・・は~い、ぶすっとしてないで、笑って笑ってーっ」

笑えないよぉ。

「・・・愛してるよ~、かわいいカワイイ、あたしのお嫁ちゃん。」
「もう、バカぁ。」
「あはは、ちょろいちょろい。」
なんて、ふざけながら、自分の携帯で2、3度シャッター音を鳴らす麻衣ちゃん。
んもぉー。

「絶対、人には見せないでね。」
って、念を押しながら、ピントを合わせるためにちょっと離れて立ってた麻衣ちゃんの所まで近付き、そのまま抱きつく。
だって、今日は、起きてからだいぶたつのに、まだスキンシップしてないもん。
麻衣ちゃんはベタベタ触ってたけど、それって不公平じゃん。

正面から向き合った状態で、私、麻衣ちゃんの腰の辺りに腕を回して、軽く抱きしめてる。
麻衣ちゃんも私の腰に手を回して来て、って、あれ? いつも、こうだっけ?

気付いたら、後ろに回った麻衣ちゃんの手は、私のエプロンの結び目を触ってる。

私、麻衣ちゃんの目を見る。
すると麻衣ちゃん、何とも言えない困った表情になって。
「あたし、おかしいのかな・・・。」

私、表情を緩めると、
「麻衣ちゃん? 私、思うんだけどね・・・」
と切り出してみる。

「昔から恋は盲目とか曲者とか言うけど、それって、恋をすると変になる、って事だよね? 私は、そうじゃなくて、恋をする事自体が変だって思うの。」

何が言いたいのか掴み切れてない、変な顔をしている麻衣ちゃんに、私は続ける。

「だからね、変なの。人は、この先どんな素敵な人と出会うかもしれないのに、ちょっと離れた場所にはもっと素敵な人が住んでいるかもしれないのに、恋をすると、その人が一番だと思ってしまう。」

麻衣ちゃんは無言。・・・いけない。今の、まずかったかしら?

「・・・麻衣ちゃん・・・」
申し訳なさそうに表情を伺う私に、少し微笑んでくれる麻衣ちゃん。
「いいよ。続けて。」
そう言って私の肩を抱き、大丈夫、って言うように、軽くぽんぽんってたたく。

「・・・うん。だからね、私には貴方しかいません、って思えたとしても、冷静になって他人の視点で見れば、それは一種の勘違いでしかないんだよ。何億という人口からすると、本当にベストな相手と出会える確率なんて、ゼロに近いのに。」
「そうかも・・・しれないね。」

「逆に、その相手でなくっちゃ生きていけない、って事も実際には無いよね。みんな、何度も恋をするけど、その中の一つが唯一の正解で、あとは全部間違いって訳じゃないから。」
「それは・・・そうだね。」

「つまりね、恋をしている時は、誰でも、それだけで十分異常な精神状態なの。元々がおかしくなる話なんだから、異性か同性か、なんて些細な事で。そもそも、勘違いとか錯覚に、正しいも間違いも無いと思うんだよね。」
「愛ちゃん・・・」
「そう考えると楽になれるよ。」

ずっと抱き合って話をしてた私たちだけど。
ここで改めて、ちょっと強めに麻衣ちゃんに抱き締められる。
「うん。愛ちゃんはさ、色んな事を考えるんだね。」
「いや、自分ルールって言うかさ、頭の中で何かを組み立てていないと、不安になっちゃうんだよ。」
私も抱き締め返して。

私たち、何も特別な事はしていない。それで誰かに迷惑をかけてもいない・・・はず。
ただ、心が感じるままに、惹かれ合う引力に、逆おうとしていないだけ。

麻衣ちゃんにそっと押されて、仰向けにベッドに倒れ込む私。
その横に腰かけて来て、私を覗き込む体勢の麻衣ちゃん。

「背中、寒くない?」
「うん、大丈夫。」

私、自分の真上、数十センチの所にある麻衣ちゃんの上体に両手を伸ばす。
ゆっくり降りて来る麻衣ちゃんの、優しさと凛々しさが同居した私の大好きな笑顔。

どちらからともなく目を閉じてキス。

私のお腹が空腹を知らせてくる、ちょっと恥ずかしいブザーが鳴るまで。



その日の夜。

とうとう来てしまった、最後の夜。

何か私たち、口数も少なくなって、お部屋のソファに並んで座り、くっついて体重を預け合ってる。

テーブルの上には、昨日もらった缶ビールが何本かと、おつまみ。
でも、最後にそれを飲んだのは、もう一時間も前のお話。

私の頭は、麻衣ちゃんの肩の上に。その上には、麻衣ちゃんの頭が重なって。二人、しなだれかかり合うように、ずっとそんな状態での無言を、何十分も続けている。

「また泊まりに行きたい」って言えば、いつでも「いいよ」って言ってくれる麻衣ちゃんだから、お泊りなんて、いつでもできるようなものだけど、こんなに長い時間をずっと一緒にいた事は無かったから、変な感慨が生まれてる。

もう離れたくないよ。あと何日でも、ずっと一緒にいたいよ。

でも。それは言い出せない言葉。麻衣ちゃんを追い詰めてしまうから。


「じゃぁ、私、帰るね。四日間、長々とお邪魔しました。・・・モカもね。」
着替えを満載したバッグを手に立ち上がる私。
モカはもう、おねむみたいだけど、軽く手を振って別れを告げる。

部屋から玄関の方へ行こうと、その場で向き直ったところで。

えっ?

一歩踏み出そうとした瞬間、私の腕の手首の辺りを掴みに来たそれは、うつむいて座ったままの麻衣ちゃんが伸ばした腕。

これ、どう考えても、引き止められているのは明白な構図。
でも、それに応えちゃうと、ずるずると帰るタイミングを失ってしまいそうで。
引き伸ばせば引き伸ばすほど、別れは辛くなるものだから。

だから私は、そのままの体勢で、背中ごしに、
「どうしたの、麻衣ちゃん?」
って、感情を込めずに言う。


「愛ちゃん・・・このまま・・・一緒に暮らそう?」
私の腕を力なく掴んだまま、いつもの麻衣ちゃんとは思えない、演技みたいな細い声が。

それは予想外の嬉しい言葉だったけど。振り向かずに私は答える。
「だめだよ。今、こんな状態で結論を出すなんて。」
「愛ちゃん・・・。」

少しとは言っても麻衣ちゃんにはまだお酒が入ってるみたいだし、誰がどう見たって、今の私たちは、別れを惜しんでる状態だもの。

「・・・だいたい、ずるいよ。麻衣ちゃん。私が言う時は、いつも『待って』って言うくせに。」
ちょっと感情が入っちゃったけど、それは事実だから。

「だから。・・・嫌とかは言った事ないじゃない。ただ、もう少しだけ『待って欲しい』、って。」
麻衣ちゃん・・・? 泣いてるっぽい?

「解ってるよ。だから、待ってたんじゃないか・・・!」
私も、ちょっと、お芝居がかった涙声。


あ・・・。

掴まれていた腕ごと、麻衣ちゃんにくいって引っ張られ、麻衣ちゃんの方に向き直らされる私。

麻衣ちゃんは、ソファに座ったまま、私の腰の辺りに手を回してきて、抱き締める、・・・って言うよりも、私にすがるように顔を押しつけて来る。

「私・・・待たせた? ごめんね、ダメなお姉ちゃんで。ヘタレな彼氏で、ごめんね。」

ううん。私たちは同じ年に同性として生まれた二人。麻衣ちゃんは、お姉ちゃんじゃないし、ましてや彼氏じゃない。

確かに、そういう一面を見せてくれて、私はそこも大好きだけど、麻衣ちゃんは、もっと、いろんなものをたくさん含んだ、私の中の一番大きな存在。

だけど、その麻衣ちゃんの実体は、あたりまえの事だけど、アニメやゲームみたいにバトン一つで魔法が使える訳もない、毎日を精一杯に生きている一人の女の子で。

「麻衣ちゃん・・・。」

私の目の前でも滅多には見せない、こんなに小さく見える姿。
私は、立っている自分のお腹辺りに押し付けられている麻衣ちゃんの頭に手を伸ばし、上等の赤ワインみたいな綺麗な色をたたえる長い髪を、そっと撫でる。

ふだんはお姉さんぶってるのに、実は、こうされるのがとっても好きな麻衣ちゃん。

「何かあった?」
さらに髪を撫でながら、ちょっと弱気になってるっぽい麻衣ちゃんに声を掛ける。

「私・・・いろいろ一人で考えた。どうするのが一番いいのか。私はどうしたいのか。・・・でも、結局、答えは出なかった。」

麻衣ちゃんが何の事を言ってるのか、はっきりとは解らない。だけど、このタイミングで、私と無関係という事はないはず。

「一緒に考えようよ、麻衣ちゃん。みんな聞くから。全部話して。」

「・・・なんか、もうみんな解んなくなっちゃった。・・・愛ちゃんは、なんでここにいるの? なんでそんなに気にかけてくれるの?」

「何で、って、あたりまえの事だよ。それが私の役目だから。・・・だって私は、麻衣ちゃんの妻だから。」

「・・・お嫁さんは、今日までじゃない。」

実はね、そうじゃないんだよ。

「違うよ。はっきりいつから、って言われると、答えられないけど、私はずっと麻衣ちゃんの事を、大事なだんな様って思ってるよ。」
「だんなさま?」
「いや、必ずしもそうじゃないんだけど、学校で教えるような言葉の中じゃ、それが一番近いの。だから、私は麻衣ちゃんの妻。」
「そうなの?・・・なんで妻なの?」

いや、そう言われてもね。

「そんなの、解んないよ。麻衣ちゃんと一緒に居るとね、自然にそうなっちゃうの。性格的なもの?じゃないかな。」
「愛ちゃんの性格?」
「うん。何だろ、私、自分が主体になって何かするよりも、誰かの横に付いていてフォローする役回りの方に幸せを感じるタイプ、って言うか。」
「・・・そうだね。愛ちゃんは、そうかもしれない。」

「私ね、例えば、レコーディングの時とかもね、麻衣ちゃんの声に付いてく、麻衣ちゃんの歌に合わせる、っていう場面が出てくるたびに、それで幸せを感じる自分を意識しちゃうの。」
「でも、それは、お仕事の話でしょう?」
「一つの例を言っただけだよ。・・・だいたい、麻衣ちゃんだって、時々変な反応するじゃない。」
「私?」

「・・・例えば、さ。私が・・・誰かに可愛い、って言われたら、麻衣ちゃんはどう思う?」
「そんなの、嬉しいに決まってるじゃない。自分の事なんかより、ずっと。」

「ほら。それって、麻衣ちゃんが、私の事を、自分のものとか、家族同然、って思ってる証拠じゃないの?」
「え、家族? いや、だって・・・ほら、友達だったら、一緒に喜ばない?」

そうじゃなくて、ね。
「自分で言うのも何だけどさ、演技良かったよ、とかじゃなくて、可愛い、だよ。例えば、佳奈ちゃん可愛い、とか、千和ちゃん可愛い、の時でも同じ反応なの?」
「それは・・・ちょっと違うかも知れないけど。」

「じゃぁさ、私が、麻衣ちゃん以外の誰かとチューとかするのは?」
「何言ってるの、そんなの許せるはず・・・が・・・」

「ほらぁ。」
「私・・・私・・・愛ちゃんを束縛してるつもりなんて、全然」

「私、もうずっと前から、麻衣ちゃんのものになった、っていう自覚があるんだよ。・・・それなのに、もう妻のつもりなのに、麻衣ちゃんは『そうじゃない』って言うの! 『まだ早い』って言うの! ・・・私、こんなに尽くしてるのにぃ・・・」

「愛ちゃん!・・・泣いちゃ駄目駄目!」
今まで自分の方が泣きかけだったのにも関らず、私を慰めようとする麻衣ちゃん。

「ご、ごめん・・・。」
私、言っちゃいけない事を言っちゃった。麻衣ちゃんには関係なく、自分が勝手に思ってるだけの事なのに。ほんとにごめん。

ソファから立ち上がった麻衣ちゃんが、私を抱き締め、形勢は完全に逆転。
そのあと、片手を私の頭の後ろに添え、その手で、何度も何度も、子供をあやすように撫でてくれる。優しい。これが本当の麻衣ちゃん。

「・・・あのさ、私もだけどさ、うん。私たち、もっと、こうやってさ、解り切った事から、一つ一つ話し合わなくちゃならないよね。」
「・・・うん。」
「だからさ、愛ちゃんも、遠慮なんかせず、何でも私に話して欲しい。・・・そりゃ、聞いたからって、今すぐ、どうこう出来ない事もあるけど。愛ちゃんの事で、知らなかった、聞いてなかった、って事があると、その方がずっと辛い、ってこと、今、凄く解ったの。」
「うん。」
「二人でさ、一緒に、幸せになろう? ・・・どうすればなれるのか、今は解んないけど。」

「私・・・麻衣ちゃんの妻でいていい?」
「私のお嫁さんかぁ・・・。苦労するよ?」

私、ちょっと笑顔になって。
「もうしてるよ。」
「言ったなぁ?」
麻衣ちゃんも笑顔。

「あ、あれっ?」
急に、さっきまで座ってたソファの上に押し倒された私。
当たり前だけど、押し倒した人は、麻衣ちゃん。

「・・・そうだね。いくら待たせても、愛ちゃん以外、いないよね。」
ソファの上で、ぎゅーっと抱き締められる。

「あたしの嫁・・・あたしのお嫁さん・・・かぁ」
私を見つめる、すごく優しくて、そして嬉しそうな麻衣ちゃんの笑顔。


お嫁さん、って言っても、あくまでも、心の中でのこと。

私たち、ずっと笑顔でいられるとは限らない。
明日どうなる、来年どうなる、なんて事は誰にも保証できない。
だから、ばら色の人生が待ってる、なんて思ってない。

だけど。麻衣ちゃんの笑顔の横でなら、私も、きっと笑顔でいられる。

私の心の中に咲く、真っ白な白百合。
美しく花開く、その一輪の右横に
私はもう一輪、白百合をイメージする。
少し小さくて、控え目な一輪。
重ならないように、でも離れないように。

小さな一輪挿しに収まって、同じ風に仲良くそよぐ二輪の白百合。
いつまでも、そんな二人でいられたらいいな。

あい×まい劇場 ~ゆり色の人生~ Fin


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